「頭を使う」を具体的に言うとこうなる 『知的複眼思考法』感想

 なんか偉い人とかがインタビューか何かで、「この不確実性が増している現代に生きる人間は、ただ時流に流されるままでいるのではなく、自分の頭で考えて生きなくてはならぬ。自分の頭で考えよ!若者よ!」みたいな自己啓発的な発言をするのを見聞きすることが多い。多くないですか?

 自分の頭で考える…口で言うには簡単だし、「確かに自分の頭で考えた方がいいわな」とも思うが、じっさい「さあこの問題について自分の頭で考えよう」と意気込んでも、具体的にどうしたらええの?って感じになる。なんやねん自分の頭で考えるって。

 このような疑問に答えるべく書かれたのがこの本。(冒頭の偉い人のように)単に自分の頭で考えろと言うのではなく、自分で考える方法論(=複眼思考)が述べられている大変ありがたい書である。


■自分の頭で考える方法
 「自分の頭で考える」とは他ならぬ「自分」の頭で考えるということ、つまり「他人」の考えをそのまま借用しないようにすることである。他人の考えには常識とか、ステレオタイプとかも含まれる。例えば「現代は情報技術の発展によって人間関係の希薄化が進んでいる」みたいな。「人間関係の希薄化が進んだことで現代人は他人の気持ちに無頓着になり、犯罪の質が昔より凶悪化している」みたいな。一見「まあそうなんやろうな」と思ってしまいそうになるような、なんとなく説得力のある説明。まあ世の中では割と受け入れられている考えだと思う。
 このような他人による一見もっともそうな考えに触れたとき、「まあそうやろな」と鵜呑みにするのではなく、「いや、ほんまか?」と疑うこと。この疑いの心をもつことが、自分の頭で考えることの第一歩である。

 疑いの心を胸に、次の段階に進もう。次のステップでは、その問題をあらゆる角度から検証する。世の中の多くの問題は、上記のステレオタイプのように一言で片づけられるような単純なものではなく、複合的な要因で成り立っているからだ。これを解明するためには、自分でいろんな角度に回って問題に向き合うという苦労をしないといけない。そこを人任せにすると、当然ながら自分のオリジナルな考えを持つことはできないのだ。

 「現代は情報技術の発展によって人間関係の希薄化が進んでいる」について考えるとどうか。「情報技術の発展は必ずしも人間関係の希薄化にはつながらないのではないか?」「人間関係の希薄化は本当に問題なのか?むしろメリットはないか?」「人間関係の希薄化とはどのような状況なのか?コミュニケーションの量が減ることか、それとも濃度が落ちることか?それとも両方か?」「まったく別の原因で希薄化が進んでいるとは考えられないか?」・・・・・などなど。このように、いろんな角度から問うことで、ステレオタイプ的な考えから脱出することができる。この、複数の視点から見ることで問題を複雑なものとして捕らえる方法が本書の題名にある「複眼思考法」である。と理解している。

 この、複数の視点で見ること、いろんな角度から問うことの方法が本書に書かれているので、読んでみてほしい。ただ、読んだからと言って一朝一夕に身につくものではないね。「技術」なので使いこなすにはそれなりの反復練習が必要になるかと思う。

 あと、この本で否定されている、ステレオタイプや常識や他人の考えに乗っかることは、実際かなり考える労力の節約になる。だから、いついかなるときもこのメソッドを使おうとするのは別にいいことだとは思うけど、それで肝心なときに知的体力的に疲れて考えられなくなるのもまずいので、まあ使う使わないは都度判断していったらいいんかなと思う。

知的複眼思考法

■類似の本
・『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

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ビジネス文書についての本。自分の考えを整理し構造化してから書くことで、明快でメッセージ性と説得力のある文書を作れるよ、ということを教えてくれた。この教えは今も役立ってる。


・『企業参謀』大前研一

企業参謀 (講談社文庫)

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問題解決の本。著者によって問題がロジカルに解体・解決される過程が披露されており、その手際の良さ・スマートさには美しささえ感じる。


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誰も教えてくれない人を動かす文章術 (講談社現代新書)

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これもだいぶ前に読んだ本。内容は忘れたけど、ためになった気がする。また読んでみたいと思う。


・『自分のアタマで考えよう』ちきりん

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ロジカルシンキングを、卑近な例とともに噛み砕いて説明した本、だったように思う。読めばロジカルシンキングの技法について体感的に理解できるんじゃないでしょうか。