色んな切り口で見れるのが歴史の面白さ『砂糖の世界史』感想

 カタカナを覚えるのが面倒で、高校の時の俺は世界史を真面目に勉強しなかった。でも今はそのことを激しく悔やんでいる。なんで世界史ではなく日本史を選択したのか、なんで世界史の面白さにあの時気付かなかったんか、と。高校のときに世界史を選択しなかったことは俺の人生の三大後悔の一つである(あと二つのうち一つはピアノを習わなかったことで、もう一つは考え中)。

 というわけで10代の俺は世界史にほとんど興味がなかったが、20代になって世界史の面白さを発見した。これは俺の人生の三大発見の一つである(残り二つは考え中)。俺を世界史好きに導いた張本人はマクニールという人で、本屋で偶然その人が書いた『世界史』という本を手に取ったことが全ての始まりだった。次にあの有名な『銃・病原菌・鉄』を読み、俺は世界史の深遠な世界にはまり込むことになっていったのであった……(私事ですいません)。

 で、この『砂糖の世界史』という本も、世界史への興味から手に取ったものだ。どんな本かと言うと、砂糖という商品が世界にどんな感じで広まっていったんか、砂糖が世界にどんな影響を与えてきたか、というようなことが書いてある本である。「いや、砂糖とかただの粉やんけ、食べ物を甘くする以外に世界に影響与えてないやろ」と思う人もいるだろう。いや、それが結構与えてるんですよね~~。以下、例を示すと…

奴隷貿易
砂糖は昔、非常に高価な商品だったが、暑い地域でしか作れないこと、作るのに多くの労働力が必要であることから、ヨーロッパ諸国はカリブ海などの植民地で、奴隷を使って生産することにした。特にイギリスがこれによって大きな富を獲得し、強国となるための原資となった。産業革命も砂糖貿易で金を得たことでなし得たものだと言われている。
また、植民地の土地は砂糖の生産に特化させられ、奴隷貿易はアフリカの国々の労働力を奪った。これらの悪影響は現在まで続いているという。

・コーヒー、紅茶、チョコレート
この3つの商品は、砂糖を入れることによって人々に受け入れられるようになり、砂糖の生産拡大とともに爆発的に民衆に広まった。またこれらも砂糖と同様、奴隷を使ったプランテーションで生産された。
イギリスではコーヒーハウスという喫茶店のようなものが大流行し、ここで数々の重要人物らが交流し、数々の重要な計画が立てられ決断がなされた。


 ……書くのが疲れてきたのでこの辺で例は終了。でもこの2つの例だけでも砂糖の影響力の大きさが分かってもらえると思う。必ずしも砂糖が直接影響してなくても、玉突きのように、砂糖の存在が間接的に世界に甚大な影響を与えてきた、つまり砂糖がなければ今の世界は確実に全く違ったものになってたはず、って事がよく分かってもらえると思う。ただの甘いだけの粉じゃないんだと。

 この辺に俺は世界史の面白さがあると思ってるんですね。思わぬ事象同士が思わぬ関わり方をして、それで世の中が動いていく。そしてその結果としての今の世の中がある。うまく表現できないけど、そういうところに世界史のワクワクするような面白さがあると思う。
世界史を勉強するのは、めちゃくちゃ伏線回収のうまい小説を読むのに似ている。

 このような世界史の面白さを分からせてくれた『砂糖の世界史』は本当にありがたい本だと思うし、単純に時系列とか地域別とかの切り口で見るよりも、「砂糖」のような、色んな地域や時代にまたがるものを切り口とする方が世界史の面白さを知るのに適してるということを教えてくれる希有な本だった。おすすめ。

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

■関係のある本
マクニール『世界史』

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史全体を、個別的ではなくつながりを意識した構成で著述した本。色んな重要な出来事や発明があって、これらの影響がどう伝播していったかを述べる、というようなスタイルだったと思う。読んでると時代が動く様子を目の当たりにしてるようで面白い。

ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』

「先進国と後進国の差ができた究極の要因は何か?」という問いに答える試み。単に歴史や人類史にとどまらない幅広い知見に基づいて究極の要因を解明していく。タイトルの銃・病原菌・鉄は先進国と後進国の差を生んだ要因の一部ではあるが、これらの要因を引き起こした究極的な要因までさかのぼっていく。著者の論が正しいかどうかは誰にも分からないが、めちゃくちゃ面白い本。偉業。

21世紀研究会『食の世界地図』

食の世界地図 (文春新書)

食の世界地図 (文春新書)

色んな食べもののルーツについて、地理的・歴史的な観点から説明した本。この本は上記で紹介してきた本よりも雑学的。でも昔の世界各国の人々の生活の一端を垣間見るようで面白い。

「頭を使う」を具体的に言うとこうなる 『知的複眼思考法』感想

 なんか偉い人とかがインタビューか何かで、「この不確実性が増している現代に生きる人間は、ただ時流に流されるままでいるのではなく、自分の頭で考えて生きなくてはならぬ。自分の頭で考えよ!若者よ!」みたいな自己啓発的な発言をするのを見聞きすることが多い。多くないですか?

 自分の頭で考える…口で言うには簡単だし、「確かに自分の頭で考えた方がいいわな」とも思うが、じっさい「さあこの問題について自分の頭で考えよう」と意気込んでも、具体的にどうしたらええの?って感じになる。なんやねん自分の頭で考えるって。

 このような疑問に答えるべく書かれたのがこの本。(冒頭の偉い人のように)単に自分の頭で考えろと言うのではなく、自分で考える方法論(=複眼思考)が述べられている大変ありがたい書である。


■自分の頭で考える方法
 「自分の頭で考える」とは他ならぬ「自分」の頭で考えるということ、つまり「他人」の考えをそのまま借用しないようにすることである。他人の考えには常識とか、ステレオタイプとかも含まれる。例えば「現代は情報技術の発展によって人間関係の希薄化が進んでいる」みたいな。「人間関係の希薄化が進んだことで現代人は他人の気持ちに無頓着になり、犯罪の質が昔より凶悪化している」みたいな。一見「まあそうなんやろうな」と思ってしまいそうになるような、なんとなく説得力のある説明。まあ世の中では割と受け入れられている考えだと思う。
 このような他人による一見もっともそうな考えに触れたとき、「まあそうやろな」と鵜呑みにするのではなく、「いや、ほんまか?」と疑うこと。この疑いの心をもつことが、自分の頭で考えることの第一歩である。

 疑いの心を胸に、次の段階に進もう。次のステップでは、その問題をあらゆる角度から検証する。世の中の多くの問題は、上記のステレオタイプのように一言で片づけられるような単純なものではなく、複合的な要因で成り立っているからだ。これを解明するためには、自分でいろんな角度に回って問題に向き合うという苦労をしないといけない。そこを人任せにすると、当然ながら自分のオリジナルな考えを持つことはできないのだ。

 「現代は情報技術の発展によって人間関係の希薄化が進んでいる」について考えるとどうか。「情報技術の発展は必ずしも人間関係の希薄化にはつながらないのではないか?」「人間関係の希薄化は本当に問題なのか?むしろメリットはないか?」「人間関係の希薄化とはどのような状況なのか?コミュニケーションの量が減ることか、それとも濃度が落ちることか?それとも両方か?」「まったく別の原因で希薄化が進んでいるとは考えられないか?」・・・・・などなど。このように、いろんな角度から問うことで、ステレオタイプ的な考えから脱出することができる。この、複数の視点から見ることで問題を複雑なものとして捕らえる方法が本書の題名にある「複眼思考法」である。と理解している。

 この、複数の視点で見ること、いろんな角度から問うことの方法が本書に書かれているので、読んでみてほしい。ただ、読んだからと言って一朝一夕に身につくものではないね。「技術」なので使いこなすにはそれなりの反復練習が必要になるかと思う。

 あと、この本で否定されている、ステレオタイプや常識や他人の考えに乗っかることは、実際かなり考える労力の節約になる。だから、いついかなるときもこのメソッドを使おうとするのは別にいいことだとは思うけど、それで肝心なときに知的体力的に疲れて考えられなくなるのもまずいので、まあ使う使わないは都度判断していったらいいんかなと思う。

知的複眼思考法

■類似の本
・『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント

考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則

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ビジネス文書についての本。自分の考えを整理し構造化してから書くことで、明快でメッセージ性と説得力のある文書を作れるよ、ということを教えてくれた。この教えは今も役立ってる。


・『企業参謀』大前研一

企業参謀 (講談社文庫)

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問題解決の本。著者によって問題がロジカルに解体・解決される過程が披露されており、その手際の良さ・スマートさには美しささえ感じる。


・『誰も教えてくれない人を動かす文章術』斎藤孝

誰も教えてくれない人を動かす文章術 (講談社現代新書)

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これもだいぶ前に読んだ本。内容は忘れたけど、ためになった気がする。また読んでみたいと思う。


・『自分のアタマで考えよう』ちきりん

自分のアタマで考えよう

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ロジカルシンキングを、卑近な例とともに噛み砕いて説明した本、だったように思う。読めばロジカルシンキングの技法について体感的に理解できるんじゃないでしょうか。