『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』感想

村上春樹の小説は割と好きでよく読むけど、基本的に主人公がかなりすかしている。 しかし今回読んだこれはすかしていながらも自分の弱さとか不安とかを読者さらけ出していて好感が持てた。 そういったところも含めて、村上作品のわりには現実感というか生活…

田山花袋『蒲団』

中年の作家が、弟子の女学生を好きになるが、恋叶わず悔しがる話。 国語の授業とかでよく紹介される有名な日本文学だが、普通に面白かった。 「立派な大人」という体(てい)で女学生に接しているが、本当は下心にまみれているおっさんの描写がリアル、そし…

空気に飲まれやすい日本人の考察『空気の研究』感想

日本人の習性として「空気を読んで流されやすい」という話をよく聞く。「空気が読めない」という意味の「KY」という言葉が少し前に流行ったりしていたこともあるし、不祥事を起こした有名人を一斉にたたく様子などを見ても、確かに日本人には空気に流されや…

天才を超えるためには何が必要か『やり抜く力』感想

「努力で才能を越えることはできるか」という問いについては、誰もが考えたことがあるんじゃないだろうか。努力か才能を越えると信じたい、しかし才能のある人間の能力は圧倒的に見える。うさぎと亀の話では亀が勝ったが、うさぎがドジでなければ亀が勝つこ…

巨大自動車メーカーの表と裏『トヨトミの野望』感想

愛知県豊臣市(架空の都市)に本社を構える大手自動車メーカー「トヨトミ自動車」をめぐる様々な事件や人間模様を描いた小説。 主人公はトヨトミ自動車の社長である武田という男。昔はあまりに遠慮なしにものを言うので会社では疎まれフィリピンに飛ばされる…

本当に組織のためになる人材とは『採用基準』感想

元マッキンゼーの筆者が、マッキンゼーの採用基準について書いた本。 マッキンゼーは超頭いい人しか入れないというイメージだったが、そのような地頭の良さよりも「リーダーシップ」が重要な採用基準だとのことで、さらにマッキンゼーだけでなく世界的にリー…

お茶に見る日本人のユニークな美意識『book of tea』感想

岡倉天心という人が外国人に、日本の茶の文化と精神を紹介するために書いた本。 西洋人は日本文化について、西洋文化より劣ったものと考えがちだったが、それを否定している。西洋文化と日本文化の違いは優劣ではなく方向性の違いであると。 茶の起源はイン…

フィクション世界を真面目に研究する遊び『ゾンビで分かる神経科学』

薬学をやっている弟に借りて読んだ本。ゾンビにも神経科学にもそんなに興味はなかったが、ゾンビと神経科学を組み合わせて本を書こうという作者の考えが面白いと思ったので読んでみた。 神経科学というのは、人間とか動物とかが神経や脳を使ってどのように世…

戦争は撃ち合うだけじゃない『補給線』

戦争と言えばやっぱり戦闘の場面が真っ先に思い浮かぶ。戦車とか兵士とかが陣形を組んで激しく撃ち合いをして、走ったり血を流したり絶望したり歓喜したりするような、そんな場面。そこでどのように行動するかが勝敗を決める、と早計な人は考えがちだが、勝…

鋭く愛のある人間観察 『無名仮名人名簿』感想

ドラマ脚本家・向田邦子氏のエッセイ集。 大人といえば「真面目で、品行良く、気が利き、しっかりとした人」という大人像があると思うが、実際のところ世の中にはそうでない大人も多く存在する。まぬけだったり怠惰だったり、妙な癖があったり卑しかったり。…

知識はワインの味わいを何となく増してくれる 『基礎ワイン教本』感想

聖書なんかにも出てくるぐらい、欧米では親しまれているワイン。もちろん日本人も飲むんだけど、自分としては学生時代に初めて飲んで以来、どこか取っつきにくさみたいなものを感じていた気がする。個人的にはフレンチやイタリアンは大好物だし、そういう食…

夢を追いかける傍らに犬がいる『ウイスキー!さよなら、ニューヨーク』感想

写真家宮本敬文氏が写真家を志してニューヨークに渡り、そこでどう生きたかを記録した自伝。題の「ウイスキー」は酒ではなく、ニューヨークにいる間に飼うことにした犬の名前。多分写真だけじゃなく文章がめちゃ上手い人で、夢を追いかけたいという野心と、…

磨き上げられた戦争のノウハウ 『戦術と指揮』感想

自分と関係ないことでも、卓越した技術とか洗練された考え方とかいう人間の成果物にふれるとき、美しい芸術品を見るときと似た感動を覚える。俺は軍人ではなく民間企業に勤めるサラリーマンだし、その会社が武器を売ってたりするわけではない。それなのにこ…

幸せで苦しい恋愛『ウエハースの椅子』感想

「絶望」と聞いてどんな感情を思い浮かべますか?何か脅威となるものが現れたり、拠り所としていたものがなくなったりして「うわ~~~」と叫んで膝から崩れ落ちそうになる感じを俺はイメージする。わりと絶望のイメージって一般的にそんなもんと違うかな。 …

色んな切り口で見れるのが歴史の面白さ『砂糖の世界史』感想

カタカナを覚えるのが面倒で、高校の時の俺は世界史を真面目に勉強しなかった。でも今はそのことを激しく悔やんでいる。なんで世界史ではなく日本史を選択したのか、なんで世界史の面白さにあの時気付かなかったんか、と。高校のときに世界史を選択しなかっ…

「頭を使う」を具体的に言うとこうなる 『知的複眼思考法』感想

なんか偉い人とかがインタビューか何かで、「この不確実性が増している現代に生きる人間は、ただ時流に流されるままでいるのではなく、自分の頭で考えて生きなくてはならぬ。自分の頭で考えよ!若者よ!」みたいな自己啓発的な発言をするのを見聞きすること…