戦乱の自動車業界『トヨトミの野望』感想

愛知県豊臣市(架空の都市)に本社を構える大手自動車メーカー「トヨトミ自動車」をめぐる様々な事件や人間模様を描いた小説。

 主人公はトヨトミ自動車の社長である武田という男。昔はあまりに遠慮なしにものを言うので会社では疎まれフィリピンに飛ばされるなど不遇の時代もあったが、実力でのし上がり、ついに社長の座にのぼりつめた。この武田、社長としてもすごく有能で、ハイブリット車の生産計画前倒しや長年豊臣自動車がかなわなかった中国進出などを持ち前の先見性と剛腕で成し遂げていき、トヨトミ自動車の成長に貢献する。この小説の一番面白いのはこの辺の、社内でも沢山異論があったりライバルや社会からの抵抗があったりする中、会社の運命を次々と切り開いていくという痛快なところだ。言ってみれば、ビジネス版ヒーロー物といった趣がある。ところが武田社長が猛威を振るうのは小説の中盤までで、ここからこの小説の(多分)メインテーマである「創業家」の色が強く表れてくる。実はこのトヨトミ自動車では豊臣家という創業家の権力がとても強く、創業家でなければ社長であってもただの使用人にすぎない、つまり誰も創業家には逆らえないという掟がある。これは資本主義を体現する存在であるはずのグローバル企業としては違和感があり、主人公の武田社長も問題ととらえている。そこで必然的に「武田社長VS創業家」という構図が生まれ、トヨトミ自動車の華々しい成長の裏腹の泥仕合が繰り広げられる。この対立の行方はどうなるのか、そしてその結果がトヨトミ自動車の運命をどう変えていくのか。この辺りもちょっと意外性があって見どころ。

 

全体的に文体がジャーナリスト的で、現実の会社や事件をモデルにしていることもあって、ノンフィクション的な面白さがある。ただちょっと人物の描き方が平板なのと、登場人物の人間性を説明するためのエピソードの挿入の仕方が若干不自然なのが気になる部分ではある。とはいうものの、年商10兆超えのグローバル企業の上層部で行われる出来事のスリリングさ、スケール感に比べれば些細な問題だ。会社で偉くなりたいと思っている人は大体面白く読める本だと思う。